おしゃれなカフェも素敵ですが、歴史を感じる建物で味わう一杯には、日常の時間がふっと切り替わるような特別感があります。そんな空気の中で過ごすカフェタイムは、小さな非日常を楽しめるひとときです。
ここでは、東京で“歴史ある空間でカフェを楽しめる”スポットを紹介します。
1. 旧山田家住宅(成城学園前)

小田急線「成城学園前駅」より徒歩7分ほどの場所にある「旧山田家住宅」は、アメリカで事業を成功させた実業家・楢崎定吉が、帰国後の1937年(昭和12年)頃に建てたとされる住宅です。その後、1961年(昭和36年)には画家の山田盛隆氏が住まいとして購入しました。

1階と2階を無料で見学することができ、1階にはカフェスペースがあります。もともとはポーチとして使われていた部屋で、やわらかな光が差し込み、どこか海外の小さな邸宅を訪れたような雰囲気。

筆者が訪れたのは2025年1月でしたが、その際はカフェタイムは12時30分〜15時までで、1日限定10名でした。メニューは「コーヒー(or紅茶)」または「コーヒー(or紅茶)+焼き菓子」のどちらかを選べ、焼き菓子も4種類から選ぶことができましたよ。
静かな住宅街の中で、ゆっくりと温かい飲み物を味わえるひとときは、まさに小さなご褒美のようです。
旧山田家住宅
東京都世田谷区成城4-20-25
公式サイト
2. 山本亭(柴又)

寅さんの街「柴又」にある「山本亭」は、カメラ部品の製造を手がけていた山本工場の創立者・山本栄之助氏の自宅でした。もともとは台東区にありましたが、1923年(大正12年)の関東大震災後にこの地に移転。その後は四代にわたって住み継がれてきましたが、1988年(昭和63年)に葛飾区が取得し、1991年(平成3年)の柴又公園の開園とともに一般公開がはじまりました。
和室が6部屋あり、どの部屋からも廊下越しに庭園を望める設計になっています。

山本亭の日本庭園は、アメリカの日本庭園専門誌「数寄屋リビングマガジン/ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」が発表する日本庭園ランキングで、毎年上位に選ばれる名園です。最新の2024年版でも全国3位にランクイン。
歴史や知名度だけに頼らず、現在の美しさや管理の行き届き方などを基準に評価されるため、“いま美しい庭”として高い支持を集めています。
庭園の中に立ち入ることはできませんが、縁側のすぐ先に広がるため、目の前でその美しさを味わうことができます。

和室にはずらりとテーブルが置かれており、カフェタイムを過ごすことができます。私が選んだのは、冷抹茶と練り切りのセット。抹茶のほろ苦さと和菓子の上品な甘さが、ゆったりとした時間をより深くしてくれました。コーヒーもありますよ。
大きく取られたガラス窓からは日差しがたっぷり入り、明るく開放感のある空間が広がっています。庭園を眺めながらひと息つくひとときは、気持ちがゆっくりと整っていくのを感じます。
山本亭
東京都葛飾区柴又7-19-32
公式サイト(外部リンク)
3. 慶應義塾図書館旧館(三田)

赤レンガの外観がひときわ目を引くゴシック様式の「慶應義塾図書館旧館」は、1912年(明治45年)4月、慶應義塾創立50年を記念して建てられました。関東大震災や空襲により被害を受けるたびに修復し、1969年(昭和44年)に国の重要文化財に指定されています。
設計したのは、ジョサイア・コンドルの弟子である曾禰達蔵(そねたつぞう)と中條精一郎(ちゅうじょうせいいちろう)。コンドルは鹿鳴館や三菱一号館などを設計したイギリス人建築家で、日本の近代建築を語るうえで欠かせない人物です。その流れをくむ二人による設計は、重厚さの中に細やかな意匠が光り、歴史的建造物としての価値をいっそう高めています。

建物内には、慶應義塾図書館旧館のシンボルとも言える“八角塔”の名を冠した「カフェ八角塔」があります。慶應義塾図書館旧館は大学の敷地内にありながら、こちらのカフェは一般の方も利用できる開かれた空間です。
中に足を踏み入れると、重厚感のある佇まいに思わず見入ってしまいます。豪華な雰囲気で、まるで映画セットに迷い込んだような非日常感が漂い、テーブルまで八角形という遊び心も魅力です。

カフェでは、軽食やスイーツ、ドリンクなど、どこか懐かしさのある喫茶店風のメニューがいただけます。建物の趣とあわせて楽しむ一杯は、より一層特別に感じられます。
カフェ八角塔
東京都港区三田2−15−45 慶應義塾三田キャンパス内
公式インスタグラム
4. 自由学園明日館(池袋)

池袋駅から徒歩5分ほどの住宅街にたたずむ「自由学園明日館」は、1921年(大正10)に創立された女学校「自由学園」の校舎です。街の喧騒からすこし離れるだけで、時代の空気がふっとよみがえるような静けさが漂います。
SixTONESのMVをはじめ、数々のMVやドラマのロケ地に使われるスポット。結婚式も行われます。

外観含めてつい写真を撮影したくなるデザインの建物ですが、なかでも大きな見所となるのが「ホール」です。女学校だった当時、毎朝ここで礼拝が行われていたという歴史があり、今も空間にしんとした気配が残っています。
窓枠や桟を巧みに使うことで、まるでステンドグラスのように見せる大きな窓が印象的で、そこからのぞく前庭の緑が一層美しさを引き立てています。

自由学園明日館では「見学のみ」のチケットに加えて、「喫茶付き見学」のチケットも販売されています。喫茶室では、コーヒーまたは紅茶とともに焼き菓子を味わうことができ、ゆっくりとした時間が流れます。名建築の空気を感じながらカップを手にするひとときは、訪れた人だけが体験できる贅沢です。
国の重要文化財にも指定されているこの建物で、女学生になった気分で過ごす時間は、まさに非日常のひとときです。
自由学園明日館
東京都豊島区西池袋2-31-3
公式サイト
5. 鶴川香山園(鶴川)

2025年1月25日に開園した「鶴川香山園」は、1794年(寛政6年)に創設された神蔵灸治所(しんぞうきゅうじしょ)、いわゆる“お灸点”として地元に親しまれてきた場所です。
2015年までは私設庭園や美術館として運営されていた時期もあり、NHK大河ドラマのロケ地として使われたこともあるそうです。
その後、町田市が敷地を譲り受け、公共の施設として再整備され、2025年1月25日に改めて開園しました。

敷地内には、1906年(明治39年)に建てられた「瑞香殿(ずいこうでん)」があります。寄棟造・本瓦形銅板葺きの木造建築で、内装も含めて書院造の趣ある建築です。
現在は地元・町田市の旬の地場食材を活かしたレストラン「桜梅桃李」として利用されており、本格的な和食ランチやカフェメニューを楽しむことができます。

私は季節のパウンドケーキとドリンクセットをいただきましたが、まず心をつかまれたのは食器。まるでおしゃれなカフェを訪れたようなデザインで、思わず嬉しくなってしまいました。
そして何より、瑞香殿の広い窓越しに見える庭園が特別な時間をつくってくれます。穏やかな景色を眺めながら、チャイとパウンドケーキでのんびり過ごしていると、いつも慌ただしく過ぎていく日常がふっと遠のくようでした。
鶴川香山園
東京都町田市能ヶ谷2-17
公式サイト




