横浜山手西洋館をめぐってきました。2025年12月現在、7つある西洋館のうち「山手234番館」は休館中なので、ここでは見学できる6つの西洋館をご紹介。外では晩秋の名残が色づきを残し、館内では館ごとに異なる華やかなクリスマスの装飾。12月は、その両方を一度に楽しめるとっておきの季節です。
横浜山手西洋館はどんなところ?

横浜山手西洋館は、横浜が開港以来、外国人居留地として発展してきた山手エリアに残る洋館群です。明治から昭和初期の住宅様式や暮らしの雰囲気を、今も実際に歩きながら感じることができます。
室内の家具や調度品、建築意匠まで丁寧に保存されていて、建物ごとに異なるデザイン様式を楽しめるのも、西洋館めぐりの魅力です。

横浜山手西洋館では季節にあわせたイベントを行っており、とくにクリスマスの時期は多くの人でにぎわいます。私が訪れたときはちょうど「世界のクリスマス」と題したイベントを開催中で、各館がテーマに合わせたクリスマス装飾で彩られていました。

12月の横浜山手西洋館は、クリスマス気分をたっぷり味わえるだけでなく、晩秋の彩りもまだ残っていて、季節が重なるような景色が広がります。洋館の佇まいともよく似合い、歩いていると物語の中に入り込んだような気分になります。
一般公開されている西洋館は全部で7つ。JR「石川町駅」から、みなとみらい線「元町・中華街駅」までの間に点在しているため、どちらかを起点にすると散策しやすいルートになります。
私は、JR「石川町駅」からスタートしました。
1. ブラフ18番館

JR「石川町駅」から徒歩約5分。最初に向かったのが、イタリア山庭園内に建つ「ブラフ18番館」です。関東大震災後に山手町45番地に建てられたオーストラリア人貿易商バウデン氏の住宅で、1991年(平成3年)まではカトリック山手教会の司祭館として使われていました。
1993年(平成5年)に現在のイタリア山庭園内に移築・復元され、一般公開が始まっています。白い外壁にペパーミントグリーンの窓枠がよく映える、明るい雰囲気の洋館です。

ダイニングルームにはブルーを基調としたクリスマスのテーブルウェアがセッティングされています。南半球のオーストラリアではクリスマスは夏に迎えるため、あたたかい色よりも涼しさを感じる色合いで飾られることが多いのだそうです。

サンルームに進むと、ペパーミントグリーンの窓枠や扉がかわいらしく、その窓いっぱいに映り込む黄金色のイチョウがこの時期ならではの美しさを添えています。籐の椅子に座ってコーヒーでも飲みたくなります。

窓いっぱいに映り込む黄金色のイチョウが本当に美しく、思わずカメラを向けてしまいます。
ブラフ18番館
横浜市中区山手町16
公式サイト
2. 外交官の家

ブラフ18番館と隣り合うようにして建つのが「外交官の家」です。明治政府の外交官・内田定槌(うちださだつち)の私邸として、1910年(明治43)に東京・渋谷に建てられたものを、1997年(平成9年)に現在のイタリア山庭園へ移築・復原した建物です。国の重要文化財に指定されており、アメリカン・ヴィクトリアン様式の外観が特徴です。塔屋や張り出し窓など、細かな意匠が今も美しく残されています。
12月に訪れると、大きな黄金色のイチョウと深いレンガ色のメタセコイアが洋館に彩りを添え、まるで絵ハガキのような美しい風景が広がっていました。

外交官の家では、ノルウェーのクリスマス装飾が施されていました。北欧の国ノルウェーのクリスマスは極寒。そんな冬の情景に寄り添うように、あたたかみのあるクリスマスが再現されていて、気分もほっこりします。

多面体のように張り出したサンルームは窓が多く、明るい日差しがたっぷりと差し込みます。窓越しには青い空と、黄色やレンガ色に染まった木々が見え、この季節ならではの美しい眺めに思わず惚れ惚れしてしまいます。
外交官の家
横浜市中区山手町16
公式サイト
3. ベーリック・ホール

外交官の家から徒歩約10分ほど。元町公園そばに建つのが、現存する戦前の山手外国人住宅の中では最大規模の「ベーリック・ホール」です。英国人貿易商バートラム・ベリックの邸宅として1930年(昭和5年)に建てられたもので、設計はJ.H.モーガン。スパニッシュ様式を取り入れたクリーム色のスタッコ外壁とオレンジ色の瓦屋根が、地中海を思わせる雰囲気を醸しています。

ベーリック・ホールではフランスのクリスマス装飾が施されていました。シックな雰囲気の中に、ノエル(フランス語でクリスマスを意味する)を家族で過ごす習慣があるという文化がさりげなく感じられます。

チェックの床が印象的なこちらの部屋は「パームルーム」。なんだか聞き慣れない名前ですが、“パーム=ヤシ”を指し、温室やサンルームのような役割を果たす部屋なのだそうです。実際に窓が多く、明るい日差しが差し込む気持ちのいい空間でした。

広い邸宅だけあって部屋数も多く、見応えがあります。ブルーで統一された部屋は、もともとお客さま用の寝室として使われていた場所。現在は応接室として設えられており、小窓のデザインもユニークで、細部へのこだわりが感じられます。
ベーリック・ホール
横浜市中区山手町72
公式サイト
4. エリスマン邸

ベーリック・ホールのすぐそば、元町公園に建つのが「エリスマン邸」です。スイス人貿易商フリッツ・エリスマンの邸宅として大正14年(1925年)から大正15年(1926年)にかけて、山手町127番地に建てられました。設計は「近代建築の父」とも呼ばれるアントニン・レーモンドで、白い外壁に鮮やかな緑の窓枠が映える、爽やかな外観が特徴です。一度解体されましたが、解体時に保存された部材をもとに、現在は元町公園内に移築・復原されています。
イチョウの葉っぱがつくる黄金色の絨毯のような光景が広がり、そのなかにひと休み用のテーブルと椅子が置かれていて、季節の情緒を感じる風景が楽しめました。

エリスマン邸ではアメリカのクリスマス装飾が施されています。移民の国らしく、さまざまな国の文化が混ざり合うミックススタイルが特徴なのだそうです。食堂では、設計したレーモンドデザインの家具が復元展示されています。

食堂と応接室につながるサンルームは、日本の気候に合わせて作られた部屋だそうで、創建当時の照明が今も使われています。ガラス窓のデザインもおしゃれで、光の入り方がきれいです。

エリスマン邸には「カフェ エリスマン」が併設されており、ランチやお茶の時間を楽しむことができます。今回の西洋館めぐりは約2時間ほどでしたが、途中でこうしたカフェで休憩を挟むと、より心地よく散策を続けられると感じました。
歴史ある洋館の中で、公園の緑を眺めながら過ごす時間は味わい深いひとときです。

私はアップルパイとコーヒーをいただきました。味はもちろん、食器のデザインがおしゃれで気分が上がります。アップルパイは生地がしっとりしていて、甘さ控えめで食べやすい一皿でした。
エリスマン邸
横浜市中区元町1-77-4
公式サイト
5. 横浜市イギリス館

エリスマン邸から徒歩約7分。港の見える丘公園には「横浜市イギリス館」と「山手111番館」の2つの西洋館が建っています。「横浜市イギリス館」は、1937年(昭和12年)に英国総領事公邸として建てられたもので、シンメトリーな外観が印象的です。
12月でもバラがまだちらほらと咲いていて、数ある洋館のなかでもひときわ華やかな彩りに包まれていました。

横浜市イギリス館だけは靴のまま館内を見学できます。見学の中心は2階で、こちらは寝室での一枚。イギリスのクリスマス装飾が施されており、サイドテーブルにティーセットが置かれているあたりが紅茶の国らしい趣を添えていました。
横浜市イギリス館
横浜市中区山手町115-3
公式サイト
6. 山手111番館

横浜市イギリス館と同じく、港が見える丘公園に建つのが「山手111番館」です。1926年(大正15年)にアメリカ人J.E.ラフィンの住宅として建てられたもので、設計はベーリック・ホールと同じくJ.H.モーガン。スパニッシュスタイルの洋館で、赤褐色の瓦屋根と白い外壁、玄関前の三連アーチが印象的です。

山手111番館では韓国のクリスマス装飾が施されており、館内はすっかり韓国伝統色で彩られていました。リビングルームのテーブルに並ぶ食器は、韓国領事館から借りたものだそうです。
山手111番館
横浜市中区山手町111
公式サイト
すべて無料で入館できるのが嬉しい

嬉しいのは、すべての西洋館に無料で入館できるということです。秋の彩りと華やかなクリスマス装飾を両方楽しめる12月は、横浜山手西洋館めぐりをするには、ある意味ベストシーズンかもしれません。
今回、私が利用した「カフェ エリスマン」以外にも、「外交官の家」と「山手111番館」にもカフェがあります。時間に余裕があれば、西洋館という非日常の空間でひと息つきながら散策を続けるのもおすすめです。
横浜山手西洋館めぐりを楽しむ際は、坂道が多いので歩きやすい靴が安心です。また、横浜市イギリス館以外は靴を脱いでスリッパで見学するため、脱ぎやすい靴だとよりスムーズです。
次回は、今回休館中だった「山手234番館」とあわせて、また横浜山手西洋館めぐりを楽しみたいと思っています。



