鎌倉駅の西口から徒歩約20分、北鎌倉駅からは徒歩約25分。どちらの駅からも少し距離があるためか、四季折々の花が咲く美しいお寺でありながら、驚くほど静かに拝観できる「海蔵寺」。
鎌倉屈指の萩の名所として知られるこのお寺を、萩が見ごろを迎えた秋の日に、そっと訪れてみました。
海蔵寺の山門を彩る萩が圧巻

扇ガ谷の静かな山裾にたたずむ海蔵寺。鎌倉幕府を支えた北条氏ゆかりのお寺として1301年(正安3年)に創建。その後いったん衰えましたが、1394年(応永元年)に鎌倉を治めていた足利氏満によって再興されました。
向かって左側が男坂、右側が女坂です。

ふと右のほうへ目を向けると、鎌倉十井のひとつ「底脱ノ井」があります。この日は真っ赤な彼岸花が彩りを添えていました。
中世の武将・安達泰盛の娘である千代能が水をくみに来た際、水桶の底が抜けてしまい、「千代能がいただく桶の底抜けて水もたまらねば月もやどらず」と詠ったことに由来。心の底もぬけて、わだかまりも解けたという歌だそうです。

さて、男坂のほうへ歩みを進めると、目に飛び込んで来たのは、わさわさと咲く萩に包まれた石段!萩寺とは聞いていましたが、これほどまでこんもりと咲き誇っているとは思わず、うれしい驚きでした。

きれいな赤紫や純白の萩に包まれながら石段をのぼるのは、この時期だけの特別な体験です。なんだか、祝福されているような気分。

山門の目の前に立つと、境内にも鮮やかな花が咲いているのが見えて「わぁ!」とさらにテンションが上がります。

そしてこちらは女坂の先に静かに佇む脇門。脇門も、萩に彩られて華やかな雰囲気です。

脇門の手前から山門のほうへ目を向けると……山門が見えなくなるほど緑やピンクの花々に覆われているのが見えました。まるでブーケのようです。
境内では淡いピンクのフヨウが咲く

わさわさと咲く萩に包まれた石段をのぼり、山門をくぐると、境内では淡いピンクのフヨウが迎えてくれました。深い緑に囲まれたその空間は、写真からも静けさが感じられるほどです。

海蔵寺といえば、シンボルにもなっている赤い野点傘。趣のある傘のすぐそばにもフヨウが咲いており、いっそう華やかです。

境内の一角には、涼しげな紫のキキョウもぽつりぽつりと咲いています。まるで夏から秋へのバトンタッチを行っているよう。

静かなお寺らしく、鐘楼もまた控えめなたたずまいです。

境内から眺める脇門の景色は、個人的にとても気に入っています。そのそばには、秋のはじまりを告げるように、彼岸花がほんの少しだけ咲いていました。
本堂の裏には庭園が広がっていた

本堂の左奥には、岩壁に開いたやぐらがあります。

花の名前はわかりませんでしたが、可愛らしい黄色い花が咲いていて、大きなやぐらの神秘的な雰囲気に、明るい彩りを添えていました。

奥へ進むと、心字池のある庭園が広がり、その奥には書院が静かに佇む様子も見えます。
中へ入ることはできませんが、こうして庭園の一部を垣間見ることができました。自然の地形を生かした素朴な趣が、侘び寂びを感じさせます。
おわりに──季節ごとに訪れたくなるお寺

海蔵寺を訪れたのは2度目。1度目は夏で、白と紫のキキョウが涼やかに咲き誇っていました。
そして今回は、秋のはじまり。思っていた以上にたわわな萩に包まれながら石段をのぼるひとときは、特別な体験になりました。そして境内ではフヨウがあちらこちらに咲き、秋の景色を華やかに彩っていました。
次は、まだ出会えていない初春や春、初夏の海蔵寺を訪れてみたいと思います。
住所・アクセス/関連サイト
神奈川県鎌倉市扇ガ谷4-18-8
「鎌倉駅」より徒歩20分/「北鎌倉駅」より徒歩25分